アレクサンダーテクニークとは

俳優の発声トラブルから始まったワーク

シェイクスピアの朗唱家であったフレデリック・マサイアス・アレクサンダーは、朗唱中の喉の異常に悩まされていました。

本番中の息継ぎで、喘ぐ様な音や息を吸い込む様な音がし、声も擦れる様になったのです。

ボイストレーナーや医師の助けを求めましたが、症状はどんどんひどくなりました。

大切なリサイタルの仕事の時、アレクサンダーは自信を失っていたので怖くなり、再び医師のもとを訪ねます。

幸いなことに、医師のアドバイスに従ってリサイタルの2周間前から声を出来るだけ使わずにいると症状が改善され、リサイタルも可能だと思えるようになりました。

けれども、実際にはリサイタルの途中でまた声が出なくなり、終盤には話すことも出来ないほど声は枯れてしまったのです。

原因は「自分のしていること」
だから「自分の使い方」を変えよう!

アレクサンダーはこうした問題について、原因が「自分のしていること」にあるのではないかと思いました。
事実、彼は声を使うときに、喉や体の緊張を増やしていたのです。

自分のしていることを変えようとするのであれば、「意識」と「身体」どちらかに原因を見出すことは無意味でした。どんな活動も、身体と心を分けて考えることは出来ないのです。

問題解決にあたるには、人を「意識と体の統一体」とみなし、その人全体が変わらなくてはいけません。

アレクサンダーが探求したのは、心身統一体としての「自分の使い方(the use of the self)」なのです。

「間違った使い方」は習慣

アレクサンダーは、セリフを話そうとすると頭のバランスを崩し、喉や身体を緊張によって押し縮めていました。

「セリフを話そう」と思う度に、いつもこの様な不適切な身体バランスになるのです。

このような間違った使い方は、「セリフを話そう」という思いが刺激となって引き起こす習慣的な反応でした。

間違った使い方の原因:エンドゲイニング

「間違った使い方」は、どうして行われてしまうのでしょう。

一つの原因にアレクサンダーが「エンドゲイニング」と呼ぶものがあります。

何かをしようとする時に「結果」を達成することだけを考えていて、冷静さを欠いていることはありませんか?
理性よりも感覚や欲求を優先させて「結果」に囚われていると、心身の調和バランスを崩しながらゴールへ向かうことになりやすい様です。

プロセスを大切にせず、感覚や欲求重視で猪突猛進に結果を得ようとしている状態を「エンドゲイニグ」とアレクサンダーは呼んでいて、「間違った使い方」の一つの原因であると言っています。

現代ではスピードや結果が重視されエンドゲイニングに陥りやすい環境です。失敗を招いたり、心身にトラブルを抱えることになりやすいので注意をしましょう。

間違った使い方の防止:インヒビション

間違った使い方を改善したいならば、正しいやり方に変えようとするのではなく、「不適切で間違っていることをしないようにすること」が必要だとアレクサンダーは考えました。

間違った使い方の習慣を、どうしたらしないように出来るのか。

習慣とは、「刺激」と「反応」の間に隙間がないこと。
ある種の刺激に対して、無意識にいつもの反応が起きることを言います。

しないようにするためには、そこに「意識的選択の隙間」を作ってあげたいのです。

なので、新しい使い方をしたいなら「すぐに反応しない」。
習慣的なやり方に飛びつくことをやめる。

アレクサンダーは、「セリフを話そうと思っても、直ぐに話さない」ということにしたのです。

それをアレクサンダーテクニークでは「インヒビション(抑制)」と言い、自分の使い方を改善するための、重要な要素だと考えています。
インヒビションによって、自身の使い方に対して気づきと理性を持ち、間違った使い方を防止するのです。

※「抑制」というと抑圧的な強い力を感じるかもしれません。
しかし、アレクサンダーテクニークで行う抑制は、暴走する習慣をを静め落ち着きを取り戻すようなものだと思います。

適切な自分の使い方:自分全体が調和的に動けること

習慣を防止することの他に、「適切な自分の使い方」を知ることも必要です。

「適切な自分の使い方」とはどういうものでしょう?

様々な解釈や言い方ができるかもしれませんが、ここでは
「行為を行う時に、身体全体のバランス関係が調和的であること」と説明しておきます。

頭と胴体のバランス関係が、身体全体に影響を及ぼす

では、どうしたら「身体全体のバランス関係が調和的」に出来るのでしょう。

アレクサンダーは、頭と胴体のバランス関係が、身体全体に影響を与えるという点に着目しました。

誤った使い方の時には、頭と胴体の間で「押し縮める」不要なプレッシャーがあり、その緊張状況は身体全体に影響をもたらしていたのです。

例えば、猫背は誰もがイメージしやすい「押し縮み」です。
猫背は頭が前に行き、胴体が下向きに潰れていきます。
ずっとこの姿勢でいると、腰が痛くなったり、肩が凝ったりします。

また反対に勢いよく「きょうつけ」する姿は、頭を後ろに引き、背面が押し縮んでいきます。

このように「頭」と「胴体」のバランス関係は、身体全体の緊張状況に影響を与え、発声器官はもちろん、腕や足などにも絶えず影響を与えます。
(そういった自分全体のバランス状況が、目に見える部分の「自分の使い方」です。)

頭と胴体の関係によって、身体の協調状況が変化するこのシステムを、アレクサンダーはプライマリー・コントロールと呼びました。

アレクサンダーテクニークのハンズオン・ワーク

アレクサンダーテクニークのレッスンでは「自分の使い方」と向き合います。
どのように習慣を抑制するのか、どのように調和的な使い方に近づけるか」ということを学んでいます。

代表的な指導法は、「ハンズオン ワーク」と呼ばれる、教師が生徒に触れながら行うレッスンです。

身体的反応(動き)に教師が直接関わることが出来るため、生徒の気づきや身体バランスの変化に影響を及ぼしやすくなります。

アレクサンダータッチは、生徒の動きや気づきをサポートすもので、姿勢を強制するものではありません。触れることで、言葉にはできないコミュニケーションを取っているのです。

 

問題の解決法としての、自己の使い方の改善

アレクサンダーテクニークの問題解決方法は、直接的なアプローチは取りません。
声の問題だからと言って、発声器官に対処する訳ではないのです。

様々な問題を抱えた方が学んでいますが、その問題に直接的な回答を提供しているのではなく、対処方法はいつも「自分全体の使い方を改善する」です。
(不適切な自分の使い方を抑制する、とも言えます)

生徒は「もし、こんなふうに自分を使ってみたら、何がおこるだろう?」と、問題と自分のプロセスを見続けます。それは、いままで行っていない方法なので、開けたことのないドアを開けていくような体験です。

このワークが長年世界中で愛されていることが、多くの方にとって問題が良い方向に動いたという実績の証であると思います。

アレクサンダー・テクニークは治療ではなく学び

この方法は、治療や施術ではなく、「どのように自分(意識と身体)を使うか」という学び・教育です。

そのため、アレクサンダーテクニークの指導者は「教師」と呼ばれるのであり、施術者ではないのです。

自分を使うということを学ぶのは、生きていくうえで基礎的なことです。
姿勢や緊張癖によって心身のトラブルを抱えている方が、自分の動きの癖を見直すために、「自身の使い方」を学んでいます。

また、世界的に多くの音楽学校や演劇学校などでアレクサンダー・テクニークが取り入れられています。「自分の使い方」を学ぶことは技術以前の基礎であり、技術習得の良い土台となるからです。

🗨実際のレッスンの体験談はこちらをご覧ください「レッスンの体験談