アレクサンダーテクニークを学び始めたきっかけ:上原知子
- あき
- ともこさんは、どうやってアレクサンダーを知ったの?
- ともこ
- わたしは、昴の養成所。
- あき
- すばる?
- ともこ
- そう。劇団昴。
シェイクスピアとか翻訳劇をたくさんやっているところで、
養成所の先生の1人に、RADA(英国国立演劇学校)で留学をして帰ってきたばかりの演出家がいたの。
その先生が、世の中にはアレクサンダーテクニークというものがあり、
アレクサンダーテクニークの先生は、人の”癖”をやめさせることが出来ます……
というような話をしてくれて、
想像できなくて、スーパーハンドを持った奇術師みたいな人を思い浮かべてた。 - けいこ
- マリックみたいな
- ともこ
- そう!(笑)
私、その頃すごく疲れていて……
家は埼玉で、東京で稽古して、その後バイトして、
夜も朝も満員電車で立って帰るという生活に。
でもその先生の授業で、首を楽にすることをレッスンで取り入れていて
リラックスの仕方みたいなものを経験できた。
ちょうどその時、お芝居をする時に、とにかくこう……
アレクサンダー用語でいうところの、「*Doing」をしたくないっていう思いが強くあって、
どうしたらいいのかと探っていて
*Doing:アレクサンダー用語で、過剰に”やろう”としている状態を指す - あき
- 当時で、「Doing」したくないって…?
- ともこ
- 「演技してる感」が嫌! という感覚。
- あき
- へー。
- ともこ
- 「リアリティって、どうやったら生まれるんだろう」って思っていたのかなあ?
……いかに、自然に真実味をもって演技をするかということに、興味があった。
アレクサンダーテクニークが演技の質に影響をもたらすとは、当時は知らなかったんだけど、
身体が楽になった稽古での経験が、
「シンプルな演技をしたい」という私の望みと関係がありそうだと思って、
もっとアレクサンダーテクニークを学びたくなった……ような気がする。
論理的にこれが必要だって思ったわけではなくて、
感覚的な惹かれ方をしていたように思うから、言葉にするのは難しいんだけど。
あ、そう!「私は一生こういう生活を送っていくんだから、手に職を持たないといけない」とも思ったんだ。 - けいこ
- 私もだ! 一緒! 一緒!
- ともこ
- けいこさんも?(笑)
役者以外で演劇の世界で職業となるものと思ったときに、
アレクサンダーテクニークの先生というのは、かなり面白そうだと思った!
で、アレクサンダーテクニークの本も買って読んでいたけど、
レッスンを受けたことはなくて。
当時はインターネットも普及していなくて、今ほど情報がなかったし。
でも運の良いことに、
東京に1人いたアレクサンダーテクニークの先生が、
たまたま通りがかった昴にレッスンのチラシを置いて行って、
それが稽古場に貼られていたの。
で、初めてアレクサンダーテクニークのレッスンを受けて、
その先生に教師養成コースが京都にあることを教わって、
京都に行こうって、すぐに決めた。 - あき
- 京都で学んだの?
- ともこ
- 初めの教師トレーニングは京都。
でも、京都のトレーニングスクールは生徒を常時募集していなかったから、
募集があるまでは、東京でレッスンを受けてた。 - あき
- へー
- ともこ
- 個人レッスンで、先生に触れてもらいながら自分の姿勢を導いてもらって
「このポジションか」とか「この感覚を覚えておこう!」ってやってた。
そういう学びではないことも、知らなくて。
レッスンの後に「どんな姿勢だったっけ?」って再現しようとして、
でも出来なくて、試行錯誤しているうちに逆に身体が痛くなったりして……。
内容はチェアワークがメインで、立ったり座ったりしながら、身体のバランスを先生に変えてもらって、
最後には寝ながらリラックスして無駄な緊張を手放していくという、毎回同じ流れだったから、
アレクサンダーテクニークのレッスンとは、そういうものだと思ってた。
自分の学びというより、先生に矯正してもらうようなイメージで。
だから、グループレッスンで初めて*アクティビティレッスンを知ったとき、すっごいびっくりしたの!アクティビティレッスン:行為にアレクサンダーテクニークを直接応用するレッスン。
踊ったり、話したり、歩いたり、料理をしたり……と、その行為自体はなんでもよい。
ダンサーとか、武道家とか……いろんな人がいて、
レッスンによってダンサーのピルエットが安定してすごくきれいになったり、
皆の動きがどんどんきれいになっていくのを見て、すごくワクワクしたし驚いた!
ほんとに、魔法使いのショーを見ているみたいで!
私は朗読をしたのね。
先生が私の身体の使い方をガイドするように触れてくれて、ただそれに従っていくと、
身体はゆったりして、心も安心してきて、声の響きはどんどんよくなって……!
こんなレッスンの仕方があるんだと、すごい衝撃で。
アクティビティレッスンを体験して、
アレクサンダーテクニークが、こんなに実用的で、すごいものなんだってわかった。
……で、時期がきて、京都のトレーニングスクールに参加したんだけど、、
授業の内容がよくわからなかったのね。
いきなりトレーニングスクールにポンと入っても。
1つのクラスしかないから、先輩も一緒のグループレッスンで、
何か共通の認識を持っている人たちのなかに、何も知らないまま飛び込んじゃって、ついていけない状態で。
アレクサンダーテクニークが、
関係性とか質とか、不要なものを減らすことを重視しているのに、
私は「姿勢」とか「ポジション」みたいなものを大事にするのだと、思いこんじゃっていたんだよね。
「正しく」なにかをやるのだと思ってた。
今までの楽になった経験も「正しいポジションがとれたから」だと解釈していたり。
そんなふうに混乱していたんだけど、
*ジェレミーが来日して授業をしてくれたときに、
アレクサンダーテクニークのプロセスをわかりやすく説明してくれて、
やっと、すっきりした。
*ジェレミー・チャンス:オーストラリア人のアレクサンダー・テクニーク教師
アレクサンダーテークニークの専門誌『Direction』の元編集長で、アレクサンダーテクニークのスタジオBODY CHANCEの校長
行き当たりばったりにレッスンを受けてきたけれど、
やっと理屈が整理されたような安心感があったの。
ハンズオンワークも素晴らしかったし、この先生にずっと習いたいなあっ!て、感動して。
でも、その時は海外から招かれたゲストティーチャーだったから無理で……。
そうやって京都でトレーニングを受けていたんだけど、
体調を崩してしまって、泣く泣くトレーニング半ばで実家(埼玉)に帰ることになったのね。
しばらく療養して、体調も回復して働けるようにもなってきたころに、
ジェレミーが日本に住むことになって、
東京で教師トレーニングスクールを作ると連絡があって…… - けいこ
- えーー、すごいタイミング!
- ともこ
- そう!
で、東京でまたトレーニングをし直して……今に至ると……。
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